【QOL(生活の質)】がんと感染症

公開日:2014年04月30日

感染症が原因のがんとは

 がんの中でも、感染症が原因となって引き起こされるものがあります。肝臓がんでは「B型肝炎ウイルス」や「C型肝炎ウイルス」、子宮頸がんでは「ヒトパピローマウイルス」、胃がんでは「ピロリ菌」などが知られています。

 感染症とは、人間の住む環境の中(水、空気、土、動物など)に存在する微生物が、人の体内に侵入することで引き起こされる病気です。環境の中には、目に見えない多くの細菌やウイルスなどが存在しています。感染症を引き起こす微生物を病原体ともいいます。病原体が身体の中に入ってきても、通常は免疫細胞によって撃退されるのですが、病原体が強かったり、身体が弱っていて免疫が機能しない場合には、病原体にやられてしまうのです。

 また、病原体が身体に入ってきても、症状が現れるまでに時間がかかる場合があります。はっきりと症状が現れないが、感染している状態のことをキャリアと呼びます。

 2012年、世界保健機関(WHO)の外部組織であるIARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)の発表によると、世界のがん発症例の16.1%にあたる約200万の症例が感染症によって引き起こされたと発表しました。この発表は英国の医学誌「ランセット・オンコロジー」の電子版にて掲載されたと報道がありました。

※IARCはWHOの外部機関で、発がんのメカニズム、疫学、予防等の研究する組織として活動をしています。臓器別に発生するがんを組織学的に分類した「WHO分類(The WHO Classification of Tumours series)」を出版しています。

手術や抗がん剤治療が原因で感染症を引き起こす

 手術や抗がん剤治療を受けている患者さんの中には、発熱の症状がでてくる方がいます。原因の一つに、手術や抗がん剤による免疫力低下を原因とした感染症が考えられます。手術の後は、手術のストレスによる免疫力の低下と、がんそのものによる免疫力低下があります。

 抗がん剤の投与後も、血液の白血球が低下して免疫力が低下します。患者さんの体力や、抗がん剤の種類や量などにもよりますが、白血球低下が著しいときには、特に感染症に気をつけなければなりません。高熱などの症状がある場合には、処置をしないと肺炎になってしまう場合も考えられます。

 入院時には主治医の処置があるでしょうが、外来で抗がん剤治療を受けている時に高熱が出た場合などは、すぐに病院に連絡をして処置をしてもらうことが必要です。感染症を治療するための、抗生物質のお薬を飲んだり、点滴や白血球を上げる注射などを行います。

清潔にすることで、感染症を防ぐ

 感染を防ぐために、手洗いうがいは基本です。外出後、食事の前は必ず行って、眼や鼻や口などの粘膜は、汚れた手で触らないようにしましょう。感染の原因として多い部位に口内があります。抗がん剤の治療をする前に、歯科で虫歯や歯周病などの治療をした方が良い場合もあるでしょう。

 口内はもともと細菌が繁殖しやすい場所なので、普段から清潔に保つことが大切です。歯の治療は、抗がん剤治療の時に医師に相談しましょう。陰部や肛門なども汚れやすいところです。ウォシュレットやシャワーを使って清潔に保ったり、家族の方がケアをする場合には、赤ちゃん用の使い捨てのお尻拭きなどを使用して、優しく傷つけないようにケアして下さい。

 抗がん剤治療における免疫力の低下を考え過ぎてしまうと、感染を恐れて外出が怖くなったり、出血を恐れて生活に対して消極的になってしまうことがあるかもしれません。そのような気持ちになるのは正常なことですので、主治医や感染症の専門家のもと、できる限りの予防策を行って、感染症にかかってしまった場合でも、できるだけ早い発見と処置が大切です。

 特に、外来で抗がん剤治療をする方は、ご自身で、症状を観察することになりますので、小さい変化も見逃さないようにしましょう。

がん患者 観察イメージ

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